人気ブログランキング | 話題のタグを見る

山口果林『阿部公房とわたし』

安部公房とわたし

山口 果林 / 講談社


吉行淳之介が亡くなった後、戸籍上の妻、事実婚の妻、愛人がそれぞれに本を出したのには苦笑を禁じ得なかったが、シーザーよおまえもか。

阿部公房氏の場合は、戸籍上の娘と愛人。亡くなってから10年くらいたってるし、なんで今更暴露本を?と思ったら、娘が出した本から自分の存在が抹殺されているのが許せなかったみたい。作家が亡くなるまで事実上の妻として何十年と暮らしたにもかかわらず、年譜にさえも一切の記述がなかったらしい。まあね、妻と子を置いて家を出て行って別荘に住みついた作家が呼んだからと言って、家族と過ごしたその家に入り込み同居し続けた女優を許せなかったんだろうなあ。それはちょっとわかるような気がする。特に劇団の舞台美術家でもあった母親と新人女優だった山口果林は家族ぐるみの付き合いをしていたというから。
だけど女優のほうは、自分の存在を作家の人生から消した作家の娘が許せなかった。事実上のパートナーである自分の存在を、60歳を超え髪も真っ白になってから、世間に明らかにした。作家が隠していた病名はもちろん、家族にうその病状を告げられ騙され最期に会わせてももらえなかったことも、なんと作家が撮影した何十年も前のプライベートヘアヌードまで。
私に向ける彼の愛を見よ!とばかりに。スゴイ。女の怒りはなめちゃいけないのだ。作家の戸籍上の妻や娘は、こんなに時間がたってから、再度切りつけられるとは思ってなかっただろうなあ。
両方とも相当プライドが傷ついていた、ということなんだろうなあ。
いや、どちらの立場も分かる気はする。
悪いのは、そう、阿部公房氏、あなたです。『砂の女』は今でも大好きだし、ノーベル賞にふさわしいと思ってるけど。
ノーベル賞までは、離婚だ不倫だとスキャンダルを起こしてほしくないと編集者が言っていたから?冗談じゃないよ。かっこ悪いよ。さっさと離婚と結婚をして世間に明らかにしておけば良かったんだよ。マスコミにもみくちゃにされても、家族を傷つけることになっても、こういう陰湿なバトルよりはずっとましだよ。
二冊の本に一切書かれていない家族の葛藤がなんとも重くて深い。そこらの三文小説より。
by happynap | 2014-10-22 01:15
<< 元AV女優 卵のせあんかけご飯 >>